大人的恋愛事情
忘却
 
意外と優しい男に、タクシーに乗せられ連れて行かれた店は、繁華街ではなく住宅街の中にある静かな店だった。



淡い桃色の暖簾には、小さく『櫻』とだけ書かれていて、一見したところでは店なのかどうなのかもわからない。



格子の開き戸を開けて入ると、カウンターといくつかの座敷があり、奥には個室もあるように見える。



靴を脱ぎ店内に入るとコートを預かってもらえて、カウンターに通された。



「いいか?」



カウンターでいいので頷くと、そこに腰を下ろす。



和風の店内は椅子ではなく、床に座る形になっていて、足を降ろすところが掘り炬燵式になっていた。
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