crocus

恩返し


若葉は肌寒さを感じて、うっすらと瞼を開いた。

すると目の前の見慣れない天井に驚き、体が固まる。

「あ、そっか……」

すぐに昨日の出来事を思い出した若葉は1人納得した。

修学旅行の朝もこんな感じだったな、とそんなことを思い出しながらベッドから降りてシーツを整える。

「上矢さん、ありがとうでした」

ふと窓の外を見れば真っ暗だった風景はまどろみ始めていて、改めて知らない町並みを見下ろした。

ぼうっと眺めていれば、時刻が気になり大きな旅行バックへ足を進めた。サイドポケットから携帯を取り出し画面を見ると『AM6:45』と表示されている。

少々早い時間だが、すっかり目が冴えている若葉は2度寝は控えて1階に下りてみることにした。

最後の段差を降りると、しんと静まり返った様子に、まだ誰も起きていないことが分かる。

何気なく店内に足を踏み入れると、思わず感嘆の声を出しそうになるところをぐっと堪えた。

昨夜は緊張のために床ばかりを見つめていて、店内の内装を見る余裕もなかったが、目の前に広がる光景に一瞬で惹かれてしまった。

若干の朝日が差し込み始めている窓はピカピカに磨かれいて、全部で5卓ある温かみのある木製のテーブルは気持ち良さそうに射しかかる陽を浴びている。

壁にはこのお店の前で撮影されたのであろう、昨夜の店員さん達がみんな楽しそうに写る大きな写真がかけられていた。

昨日は昨日。本来はやっぱり仲がいいんだなと、羨ましく思える。

店内の一角には誰が演奏するのか分からないが、ドラムセットやアンプがいくつか置かれていた。

ここは普通のカフェではなさそうだ。



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