解ける螺旋

 記憶の錯誤

何度も危険な目に遭っている事。
そしていつも健太郎が守ってくれた事。
だけど健太郎は、不可解な顔をして、ただ首を傾げた。


二人で大学からの帰り道を並んで歩きながら、次に進める実験の事を話し続けた。


そんなに大規模じゃないから、学生の手を煩わせる必要はないと言う健太郎と、サンプルをたくさんとる為にも、協力を仰ぐべきだと主張する私。
日程的にもギリギリの中で、少しでも多くの学生のスケジュールを抑えるのは確かに厳しかったし、健太郎の意見ももっともだったんだけど。
何度もチャンスがある訳じゃないから、私も意見を覆せなかった。


「……そうは言ってもさ。
この実験なら過去のデータを使う事も出来るだろ。
何も新しくやり直すまでもないんだし」


健太郎が眉間に皺を寄せた。


効率だけ考えたら健太郎の言う通りなんだけど、元が頑固な私はそれじゃあ納得出来なかった。


「ダメよ。それじゃあ私達の研究だって胸を張れない。
お父さんもいつも言ってるもの。
地道な実験と確実な推論が研究の成果に繋がるんだって」

「いや、わかるけどね。
今はそんな地道な事してるだけの余裕が……」


議論に夢中になり過ぎて、辺りを気にする余裕もなかった。
半分溜め息混じりにそう言った、健太郎の表情が強張るのを、私は怖い位はっきりと見て取った。


「……奈月、危ない!!」


――え?
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