主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】
昼を回った時に息吹が起きて、隣に主さまの姿が無かったので目を擦りながら縁側に出ると…


「主さま…どうして縁側で寝てるの?」


「…うるさい。話しかけるな」


不機嫌なのは、いつもは寝ている時間帯だからだろう。


少し離れて縁側に座っていると、山姫が息吹に気付いて声をかけてきた。


「息吹、熱は下がったのかい?」


「うん。だから母様…行ってもいいよね?」


上目遣いで聞くと、山姫は肩で息をつきながら気の強そうな美貌の目元を和らげた。


「あたしはあんたに残ってほしいけど…高千穂は危ない場所なんだよ?」


「でも主さまの傍に居れば安全でしょ?だからずっと主さまの傍に居ます」


――山姫は、主さまの眉がぴくぴくと動いているのに気付いていたが、それを突っ込む前に、主さまが最も苦手とする男が屋敷を訊ねてきた。


「遊びに来てやったぞ」


「…晴明か。俺は眠い。後にしろ」


「ああそうなのかい?じゃあ息吹、父様と遊ぼうか」


「私と遊んでくれるの?どうしよう、何がいいかな、どうしようっ」


嬉しそうにはしゃぐ息吹を見せつけられた主さまが薄目を開けて晴明を睨むと、


“趣味は主さまいじめ”と豪語する晴明はすまし顔で息吹を膝に乗せると猫にするように息吹の喉をくすぐって喜ばせて抱き着かれて、

常々息吹とそう言う風に接したいと思っていた主さまはもやもやが爆発して、晴明に向けて煙管を投げつけた。


が、それは腕にあたる前に優雅にさっと掴まれて、口に咥えると息吹をうっとりとさせてしまった。


「寝ないのか?ああ私たちが邪魔なんだね、だったら息吹の部屋へ移動しようか」


「はいっ」


「…ちょっと待て。何故移動する必要がある?そこに居ろ」


「だったらその般若の如き顔つきはやめておくれ。時に息吹、高千穂へは行くんだね?」


――そこで夢に出て来た鬼八という男のことを息吹は何の気なしに、全幅の信頼を寄せている晴明にそれを打ち明けた。


「晴明様は鬼八という男の方を知っていますか?鵜目姫という女の方を捜してて…それを私だと勘違いしてました」


「な、に…?」


主さまが気色ばんだ。
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