主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】
一体なんのことだかわからずに口を開きかけた時、晴明が人差し指を唇に当てて制止した。
「決して声を出したり姿を現わそうとは思うな。わかったら頷け」
姿隠しの術は使っているのだが、自分の姿は晴明の目には鮮明に捉えられている。
主さまが仏頂面で頷くと、盆に2人分の茶を乗せた息吹が戻ってきた。
「お待たせしました。……父様…あの…」
「ゆっくりでいい。邪魔者も追い払ったし、ゆっくり話そうではないか」
邪魔者とはもちろん銀のことで、2人で縁側に座り、黙ったまま茶を飲み、神妙な面持ちの息吹を主さまは息吹のすぐ傍に立ったままじっと見下ろしていた。
「あのね父様…私…主さまに“好き”って言ったの」
「ほほう。だが十六夜は平然としているように見えたが?」
「そうなの。それは多分私が“道長様よりも好き”って言ったから……ちゃんと主さまに“好き”って言えなかったの」
「…!?」
――自分の耳を疑った。
思いも寄らない息吹の言葉は雷のように脳天を貫き、全身痺れたような症状に襲われた主さまは…ぽかんとしていた。
「ふむ、それは鈍感な十六夜には伝わってはいないだろうな。だがそなたは十六夜の嫁になりたいのだろう?」
「…うん…。でも…主さまは私のことなんて気にもかけてないと思う。私は食べ物だから…。でも好きなの。主さまの優しいとこ…大好き」
「………っ」
息吹の告白が清水のように身体に沁み渡り、動揺を隠せない主さまはよろりとよろめいた。
…今まで一方的に想いを寄せていたものだとばかり思っていたが…
息吹が自分のことを好いてくれている――
そして、俺も息吹…お前のことを…
「言っておくが、十六夜はたいそう女に人気がある。うかうかしていると、あ奴も適齢期故、気に入った女が現れたら…」
「…一緒に居られなくなるね。でも主さまに幸せになってほしいから…その時はいいの。でも1度位、しっかり告白しておきたいな…」
「するといい。断られたとしても、そなたはたいそう可愛らしいのだから、すぐにいい男に巡り合える」
主さまは未だ…
衝撃に襲われていた。
「決して声を出したり姿を現わそうとは思うな。わかったら頷け」
姿隠しの術は使っているのだが、自分の姿は晴明の目には鮮明に捉えられている。
主さまが仏頂面で頷くと、盆に2人分の茶を乗せた息吹が戻ってきた。
「お待たせしました。……父様…あの…」
「ゆっくりでいい。邪魔者も追い払ったし、ゆっくり話そうではないか」
邪魔者とはもちろん銀のことで、2人で縁側に座り、黙ったまま茶を飲み、神妙な面持ちの息吹を主さまは息吹のすぐ傍に立ったままじっと見下ろしていた。
「あのね父様…私…主さまに“好き”って言ったの」
「ほほう。だが十六夜は平然としているように見えたが?」
「そうなの。それは多分私が“道長様よりも好き”って言ったから……ちゃんと主さまに“好き”って言えなかったの」
「…!?」
――自分の耳を疑った。
思いも寄らない息吹の言葉は雷のように脳天を貫き、全身痺れたような症状に襲われた主さまは…ぽかんとしていた。
「ふむ、それは鈍感な十六夜には伝わってはいないだろうな。だがそなたは十六夜の嫁になりたいのだろう?」
「…うん…。でも…主さまは私のことなんて気にもかけてないと思う。私は食べ物だから…。でも好きなの。主さまの優しいとこ…大好き」
「………っ」
息吹の告白が清水のように身体に沁み渡り、動揺を隠せない主さまはよろりとよろめいた。
…今まで一方的に想いを寄せていたものだとばかり思っていたが…
息吹が自分のことを好いてくれている――
そして、俺も息吹…お前のことを…
「言っておくが、十六夜はたいそう女に人気がある。うかうかしていると、あ奴も適齢期故、気に入った女が現れたら…」
「…一緒に居られなくなるね。でも主さまに幸せになってほしいから…その時はいいの。でも1度位、しっかり告白しておきたいな…」
「するといい。断られたとしても、そなたはたいそう可愛らしいのだから、すぐにいい男に巡り合える」
主さまは未だ…
衝撃に襲われていた。