主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】
「しかし十六夜よ」
…小言が始まるのだと悟った主さまは、心が折られないように身構え、表情を引き締めた。
すると晴明はだらりと横になり、人差し指で畳を叩くと座るように指図してきたので、逆らわずに主さまも腰を下ろした。
「…なんだ」
「まさか私の娘からの告白を待つのではなかろうな。私の友人にそんな腰抜けは居らぬはず故、まさかとは思うが聴いてみる」
「…」
「嫁にやるという約束はせぬが、そなたが息吹を想う気持ちの大きさを量らせてもらう。万が一…息吹からの告白を待つのであれば、それには応えるな。そなたの息吹への想いはその程度だと判断させてもらう」
「…俺に告白しろと?」
「ああ間違えた。そなたは腰抜けだったな、助言などするのではなかった」
「ま、待て。…ちゃんとする。…俺から」
そう約束したのに、晴明はそれを聴いていないかのように庭を眺めるばかりで、主さまが肩を揺するとようやく顔を上げて鼻を鳴らした。
「幸せにしてくれる男でなければ息吹はやらぬ」
「…わかっている。…!」
話している最中に息吹が風呂から上がってきた。
髪はまだ濡れていて、頭の上でゆるく結い上げ、白い浴衣を着た息吹に思わず喉をごくりと鳴らすと、晴明が扇子で膝を思いきり叩いてきて、主さま悶絶。
「?父様?」
「ああいや、蚊が飛んでいたからね。さあ、父様の晩酌に付き合っておくれ」
「はい」
…たとえ仮であっても、仲睦まじく晴明に身体を寄せた息吹の姿を見たくなかった主さまは庭に下り、さっさと姿を消した。
もちろん主さまが嫌いなわけではない。
ただあの純情馬鹿をその気にさせるのは、骨が折れるのだ。
「で、十六夜にはいつ告白を?」
「どうかな、主さまはいつもみんなに囲まれてるから難しいの」
「また2人で出かければいい。きっと十六夜も喜ぶ」
「そう?いやな顔するだけじゃないかな…」
晴明はとことん悪い想像ばかりする息吹の頭を撫でると、言い聞かせた。
「そなたの誘いを断る馬鹿者などこちらから見限ってしまえ」
それは本音。
まだ嫁には出したくないけれど――
…小言が始まるのだと悟った主さまは、心が折られないように身構え、表情を引き締めた。
すると晴明はだらりと横になり、人差し指で畳を叩くと座るように指図してきたので、逆らわずに主さまも腰を下ろした。
「…なんだ」
「まさか私の娘からの告白を待つのではなかろうな。私の友人にそんな腰抜けは居らぬはず故、まさかとは思うが聴いてみる」
「…」
「嫁にやるという約束はせぬが、そなたが息吹を想う気持ちの大きさを量らせてもらう。万が一…息吹からの告白を待つのであれば、それには応えるな。そなたの息吹への想いはその程度だと判断させてもらう」
「…俺に告白しろと?」
「ああ間違えた。そなたは腰抜けだったな、助言などするのではなかった」
「ま、待て。…ちゃんとする。…俺から」
そう約束したのに、晴明はそれを聴いていないかのように庭を眺めるばかりで、主さまが肩を揺するとようやく顔を上げて鼻を鳴らした。
「幸せにしてくれる男でなければ息吹はやらぬ」
「…わかっている。…!」
話している最中に息吹が風呂から上がってきた。
髪はまだ濡れていて、頭の上でゆるく結い上げ、白い浴衣を着た息吹に思わず喉をごくりと鳴らすと、晴明が扇子で膝を思いきり叩いてきて、主さま悶絶。
「?父様?」
「ああいや、蚊が飛んでいたからね。さあ、父様の晩酌に付き合っておくれ」
「はい」
…たとえ仮であっても、仲睦まじく晴明に身体を寄せた息吹の姿を見たくなかった主さまは庭に下り、さっさと姿を消した。
もちろん主さまが嫌いなわけではない。
ただあの純情馬鹿をその気にさせるのは、骨が折れるのだ。
「で、十六夜にはいつ告白を?」
「どうかな、主さまはいつもみんなに囲まれてるから難しいの」
「また2人で出かければいい。きっと十六夜も喜ぶ」
「そう?いやな顔するだけじゃないかな…」
晴明はとことん悪い想像ばかりする息吹の頭を撫でると、言い聞かせた。
「そなたの誘いを断る馬鹿者などこちらから見限ってしまえ」
それは本音。
まだ嫁には出したくないけれど――