「お帰りなさい」


晴明を出迎えたのは、朱色の袴に濃紺の単姿の…息吹だった。


「ただいま。式と大人しく遊んでいたかい?」


「はい。今日は人魚さんと貝合わせをして勝ったの」


――6年前からずっと、息吹はこの晴明の屋敷から一歩も出なかった。

故に必然的に遊び相手となるのは、晴明が使役している妖や式神であり、幼い頃から妖と遊んでいた息吹にとっては何ら違和感のない生活を送っていた。


…あれから主さまや山姫たちはここへ来ていない。

ここへ来るのは、晴明の力を借りようと訪れる朝廷の者や友人の道長だった。


「最近道長がそなたの話ばかりする。どうだ、あいつに嫁ぐか?」


晴明の着替えを手伝っていた手が止まり、息吹が目をまん丸にしながら笑い声を上げて一蹴した。


「またそんな冗談を。やめて下さい、私はまだ16になったばかりだよ?」


「16はもう行き遅れの歳だぞ。父様は息吹のことを思って…」


「ここに居たいんです。…駄目?」


――美しく成長した息吹の姿は、時々訪れる客人たちが偶然目にしてはあっという間に朝廷にも知れ渡ってしまい、一条天皇からも度々“参内させよ”と言われてきていたが、

それは息吹には内緒だ。


「居たければずっと居るといい。ああそうだ、私に嫁ぐか?大切にするよ」


昔から変わらない魅力的な笑みで顔を近付けてきて、

色恋沙汰を全く知らない息吹は晴明の両頬を手で挟んで叩くと舌を出した。


「からかわないでっ。。ねえ父様…そろそろ私も平安町へ行ってみたいんです。…まだ駄目?」


――この屋敷から一歩も出ないことは苦痛ではなかったが、人と触れ合いたい。


晴明はそんな心細さに気付いていて、この6年を振り返った。


…主さまたちのことが恋しかったはずだ。


だが泣き言ひとつ言わず、耐えた。

何度も夜泣いている姿を見るのは忍びなかったが、主さまに食われることだけは避けてやりたかった。


「そうだね、では明日、平安町へ連れて行ってやろう。似合いの髪飾りでも買ってあげるよ」


「!父様、ありがとう!」


ぎゅっと抱き着いてきた無邪気な笑顔に癒される。

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