まずは相模親子を母屋へ通すと、息吹は足早に離れへ行き、普段から掃除をしていたのであまり埃が被っていないのを確認すると晴明の元へと戻った。


「こ、こんな豪華なお屋敷に泊めて頂くのは…」


「私の娘が粗相をしたようで申し訳ない。衣食住の心配はせずゆるりと身体を休まれるがよい」


直衣姿の晴明がのほほんと茶を啜りながら笑いかけると、相模の母は頬を赤らめて俯いた。


…晴明は稀代の術士で、しかも色男として有名な男だ。

浮いた噂は何ひとつなかったが、晴明に憧れる女は朝廷にも平安町にも、そして幽玄町にも多い。

妖と人との間に生まれた異端の子であることを知っている者も多いが、皆はあまりそのことを気に留めていなかった。


「で、そなたの名は何と言う?」


「萌(もえ)…と申します。晴明様…しばらくの間ご厄介になります」


「気にしないでほしい。それにそなたの顔色が気にかかる。私に見せてみなさい」


医術も心得ている晴明が萌の隣に移動して顎を取って上向かせると、青白かった顔色は桜色に染まり、息吹は相模と顔を見合わせると小声でそれを口にした。


「相模…お父さんは?」


「お父ちゃんは居ない。俺が生まれた時から居ないから…」


「そっか…じゃあ私と同じだね」


「え?」


晴明が萌の脈を取ったり背中をとんとんと叩いているのを見ていた息吹は、病弱な母親を心配そうに見つめる相模の手をきゅっと握った。


「父様はなんでもできるんだから心配しないで。ね、そうでしょ?」


「ふふふ、そうだねえ。萌は元々からして病弱な体質のようだ。滋養のあるものを取り、私が煎じた薬を飲めば多少は改善するだろう。しばらく滞在しなさい」


「ですが…ご迷惑をおかけするのでは…」


「お願い、そうして下さい!相模…ごめんね、今夜多分熱が出るから父様、熱さましのお薬を…」


「わかっているよ。ちなみに十六夜には今日行けないことを言ったのかい?」


「はい、式神にお願いしました。怒るかな…」


すり鉢とすり棒、そして多数の薬草が入った棚から幾つかの薬を取り出した晴明は、主さまが歯噛みしている光景を想像して腹筋が崩壊しそうになりつつ平静を装って振り返った。


「怒りはしないだろう。それより早く掃除をして萌と相模を休ませてあげなさい。式神を貸してあげよう」


息吹は頷いた。

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