主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】

永遠に――…

庭にうじゃうじゃと沸いていた餓鬼が煙のように一斉に消えた。


さすがの銀もその頃は息切れをしていたので、肩で大きく息をついて屋内を見つめると、百鬼たちが一斉にぞろぞろと出て来た。

…何故かほぼ全員が、号泣しながら。


「俺…俺…感動した!」


「息吹はすごいな…あの子はすごい子だ!言われた通り俺たちで全員で守ってやろう!ずっとずっとだ!」


「…何事だ?」


彼らが全員庭に降りてまた屋内に目を遣ると、息吹を腕に抱いた晴明と、主さまを肩に背負った晴明と同じ姿の式神が出て来た。


「終わったのか」


「ああ、終わった。銀…この子はやはりすごい子だ。何もかも、この子が終わらせた」


「…だが雪男は死んだぞ」


「…その他諸々の話は後で話す。今はいち早く十六夜と息吹を静かな場所に連れて行きたい」


「息吹!息吹、大丈夫なのか!?」


こけつまろびながら駆け寄ってきた相模が青白い顔をして動かない息吹を見て今にも泣きそうな顔になったが、晴明は少し疲れたような表情で微笑すると頷いた。


「大丈夫だ。私たちは幽玄町に戻る。ここはもう使い物にはならぬぞ、一旦取り壊していちから建て直すよう帝に進言してくれ。私の式神を貸してやる」


「晴明様…」


「萌か。怖い思いをさせて申し訳なかった。帝とそなたたちは私の屋敷でゆっくりしていてくれ。後で事の発端を話す」


「はい」


――晴明の周囲は息吹と主さまを心配する百鬼で溢れ返っていて前も進めない状態で、苦笑した晴明は空を駆け上がって百鬼たちを挑発した。


「誰が1番最初に幽玄町に着くか競争しようではないか。勝者には十六夜の部屋で十六夜と息吹の看病を任せる。どうだ、やるか?」


「主さまの部屋に…!?俺、やる!」


「俺もだ!」


わあわあと騒ぎ出した百鬼たちを引き連れて去ってゆく。


腕に抱いた息吹はいつものあどけない寝顔で、阿修羅や木花咲耶姫が乗り移っている時の妖艶な息吹ではなく、心の底から安堵した。


「息吹…父様を泣かせるのではないよ。そなたと永く共に生きることができる…。これ以上に幸せなことはない」


息吹にどう打ち明けようか。

今まであったこと、そしてこれからのことを。


これからはきっと楽しい未来が待っているはずだ。



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