優しい手①~戦国:石田三成~【完】
汗だくの三成に対して、謙信はどこ吹く風で風の匂いを嗅いでいた。


「雨が降りそうだ。眼帯のやんちゃ坊主は帰って来れるかな?」


――三成は謙信に確かに殺されそうになっていて、思わず三成の前でへたりこむ。


「桃?」


「ちょっと立ちくらみしちゃった…」


手の甲で額を伝う汗を拭いながら三成が手を差し延べてきて、その手に縋りながらなんとか立ち上がると謙信の白皙の美貌に苦笑が浮かんだ。


「遊び相手になってもらってただけだから。命を奪おうなんて思ってないからね」


「…謙信さんは、そんなことしない、よね」


三成のことをもちろん一番信頼しているが、謙信という男には他の男にはないものを感じる。


少し下がった優しげな瞳がまた苦笑に和らいで、前髪をかきあげながら空を見上げた。


…だから、こんなにも意識してしまうのだろう。


胸が熱くなる。


「…桃、来い」


井戸の前まで連れて行かれて何が何だかわからないまま握られた手を見つめていると、やや苛立った声と共に顎に手をかけられて少し強引に上を向かされた。


「謙信ばかり見るのはやめろ。その目を潰してしまいたくなる」


――嫉妬心を隠しもせずに焼け付く黒い瞳で半ば睨むような激しさで見つめてくる三成から思わず一歩後ずさると、


ぱっと手を離され、三成は井戸から水を汲むと服を着たまま頭から被った。


桃の位置からは顎から地面に落ちる水滴や、細い首筋を伝う水が見えて…

それが壮絶なまでに美しく見えて、また自分の心を恥じて唇を噛み締める。


「俺が謙信より劣っているのは承知している。だが桃…先程のそなたが謙信を見つめる瞳は見たくなかったな」


ぶるぶると首を振って水滴を弾き飛ばすと、長い前髪のせいでどんな表情をしているのかわからなくなった。


「三成さん…」


「もしあんな目でそなたに見つめられたら…俺ならすぐに押し倒す」


低く押し殺した声に桃の鼓膜はびりびりと震えた。

ただ…この手はやはり、離してほしくない。


だから自ら手を伸ばして握った。


「…桃?」


――優しい手を離したくない。
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