優しい手①~戦国:石田三成~【完】

夢現に

――幸村が倒れている三成を見つけた時…


すでに三成の心臓は止まりかけていた。


夥しい出血…


元々色の白い肌は青白くなっていて、まるで這っていたかのような格好で地面に倒れ伏していた。


「三成、しっかりせい!」


――秀吉が懸命に呼びかける。

呼びかけながら豊臣軍の本陣へと駆け込み、直ちに薬師を呼んで治療を開始した。


「三成殿…!」


襖は閉められ、中に入ることが許されなかった幸村はその場で正座をし、中の様子を窺う。


「殿、この太刀傷では…三成様は……」


「弱音を吐くな!三成の命を救うことができんかったら儂はお前を打ち首にするぞ!」


怒号が響き、あの好々爺が必死の形相で三成を心配して、絶えず呼びかけている声が響いていた。


「…才蔵、居るか?」


「はっ、ここに」


天井から声がした。


「殿への報告はしばらく待ってくれ。三成殿の生死がわかるまでは…」


「御意」


すっと気配が消え、歯を食いしばって俯いた。

すると冷え切った肩にふわりと温かい感触がして見上げると…


「真田殿、これを」


「…官兵衛殿…」


――理知的な表情の男が微笑みかけながら同じように隣に座り、死神から必死に逃れようとしている三成の魂を想った。


「懐にこれが」


「それは三成殿が秀吉殿にしたためた文。ここまで懸命に駆けて…ようやくたどり着いたというのに…!」


とうとう幸村の瞳から涙が零れ落ちる。


戦を止め、秀吉を窘め、そして長年慕い続けてきた秀吉に自分の立場を理解してもらいたくてしたためた手紙――


幸村はその内容を知らなかったが、血糊がべったり付いた文を見て、嗚咽が漏れた。


「三成殿は…きっと目を開けます。桃姫の元へ帰らないといけないのですから。拙者は…拙者の力不足故に…!」


「幸村殿…ご自身を責めなさるな。正則は現在逃亡中で行方を追っております。見つけ次第、処分いたします故」


「かたじけない…!」


男泣きする幸村の肩を抱くと…冷え切っていた。


――三成には良い友が居る。


それが嬉しかった。
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