優しい手①~戦国:石田三成~【完】
「桃殿は…落ち着かれましたか?」


――一人思い耽りながら晩酌をしていた三成の部屋に幸村が現れた。


己の立場を慮ったが故に桃を危険な目に遇わせたこと…先程から三成の前で正座しては言い訳もせずに黙り続けていた。


「…もう良い。お相手が茶々殿だったことが幸いだった。幸村、謙信公はいつ頃着く?…まさか秀吉様の首を狙って…」


秀吉の第一の家臣である三成にとって、無敗を誇る謙信が乗り込んでくることは恐れの何物でもない。

しかもそれを秀吉に隠していることが三成には心苦しくて仕方がないのだが…


そう言った途端幸村が腰を浮かせて抗議してきた。


「謙信公は国取りなどに興味はございませぬ!ただ…毘沙門天の天啓を受けたとのこと。本来は心穏やかな優しきお方です」


…主君自慢ならば三成も負けない自信があったが…

目下目の前の幸村よりも、関心は完全に桃に向いてしまっていたので手にしていた盃で強い酒を一気に呷る。


「まさか…桃に?…いや、杞憂か」


「三成殿…桃殿はその…さらに可愛らしくおなりになって…その…」


もごもごと口を動かす真面目な青年に三成は目を緩ませた。


「戦においては勇猛で知られる真田幸村がそのように口ごもるとは…どうされた?」


まだ知り合ってほんの少ししか経っていないのに、幸村の心は完全に桃に奪われていて、

この恥ずかしがり屋の血気盛んな青年に一大決心をさせていた。


「桃殿を越後に連れ帰りたい。拙者の…妻として…」


――目を見張った三成にあたふたと立ち上がると顔を真っ赤にさせながら逃げ出すようにして頭を下げる。


「いや、三成殿のお許しは頂かなくとも良かったのですが一応…。失礼!」


足音を立てながら去って行った幸村の言葉が耳にこびりつく。


「桃を…妻に…?」


幸村は事情を全く知らない。

そして桃は…恐らくこの時代に残る気はないだろう。


「いくら好いても離れてゆくのに…難儀なことだな」


他人事のように呟いたが…

全く他人事ではなかった。


立ち上がったその脚は、自然と桃の眠る部屋に向かっていた。
< 42 / 671 >

この作品をシェア

pagetop