優しい手①~戦国:石田三成~【完】
まだ全然気持ちの整理がつかない…。


――自室として割り当てられた広い和室の隅っこに座ると、桃は自身の唇に触れた。


「また…されちゃった…」


さっきのことを考えると身体が熱くなってきて、また三成のことで頭がいっぱいになる。


「駄目駄目!本当はこの時代の人と深く付き合っちゃいけないんだから…!」


余計に歴史が狂ってしまう可能性があり、両親はいつも深入りしないように心を砕いていたという。


「桃、入るぞ」


襖の向こうで三成の声がして、桃は慌てて身なりを正し、正座した。


「ど、どうぞ」


すっかり女の子らしくなってしまう自分にかなり動揺しつつも、入って来た三成が自分と同じような表情で照れているような風だったので…

それが逆に桃を安心させた。


…大人の男として、余裕綽々で迫って来られたら…ひとたまりもないような気がしたからだ。


「先ほどのことは…いきなりですまなかったな」


距離を置かずに目の前で座った三成。

また何かされるのではないか、と緊張しながら俯いて小さく返事をした。


「…うん」


――“大切に想いはじめている”


そう言った三成が、自分のことを女として意識しているということが、桃の心情を猛烈に変化させていた。

元気どころか…まるっきり恋する乙女だ。


「そなたが…元の時代へと帰りたがっているのはわかる。だが、俺は帰したくない。実際問題どうすればいいのか…俺にもよくわからない」


膝の上に置いていた手をぎゅっと握られた。

緊張が最高潮に高まる中、桃は唇を震わせながら声を裏返らせた。


「ちょ、ちょっと三成さん…なんで手を握って…」


「触れたい、と思うのは至極当然のことだろう?桃は俺に…触れたくないか?」


――いきなり色っぽくなり、顔を近付けてくる三成から逃げることもできず、ずるずると座り込むと…


背中に腕を回され、広い胸の中に桃は抱きしめられていた。


「俺は想いを抑える術を持たない。そなたを困らせたくないが、俺を…好いてほしい。桃…」


耳に息がかかって、身体の力が抜けていく。


もう、三成のことしか考えられなくなっていた。
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