優しい手①~戦国:石田三成~【完】

祝言の時

その夜から桃は身体をぴかぴかにするべく長風呂に浸かっていた。

もちろん、見張り役は幸村だ。


女中が身体を洗うのを手伝ってくれると言ったのだがそれを丁重に断って自分で何とかぴかぴかにしたつもりだったが…背中側はどうしても手が届かない。

仕方なくバスタオルで身体を隠しながら湯殿を出て、出入り口に立っている幸村に声をかけた。


「あの…幸村さん」


「!も、桃姫!そのような格好で出て来てはいけません!」


「うん、そうなんだけど、ちょっとお願いがあるんだけどいい?」


湯殿の近くには台所もあるので女中や家臣たちの出入りも激しい。

桃の裸を絶対に見られたくない幸村は仕方なく目を瞑りながら湯殿へ入ると、その場に正座した。


「お願いとは…?」


「背中擦ってほしいの」


「!そ、それは拙者には無理です!」


「無理くないよ。越後に着くまでに私が目が見えなかった時擦ってくれたでしょ?目隠ししてていいから!お願い!」


幸村ともなれば目隠ししていてもしていなくても同じようなものだが…また桃の肌に触れることができるのだという邪な想いが沸き上がって首を振って雑念を払うと、渋々頷いた。


「ぎょ…御意」


「よかった!はいこれタオル。手を引いてあげるから転ばないでね」


桃にタオルを手渡され、桃が目の前に座った気配を感じた。


…明日桃は謙信との祝言を迎える。

心待ちにしていた時ではあったが、こうして2人きりになると、複雑な想いにかられてしまう。


「桃姫…拙者の桃姫の想いを覚えていますか?」


「…うん覚えてるよ。キスもされたよね。謙信さんには話してないから大丈夫だよ」


「…拙者は殿の下僕ですが、終生桃姫をお守りすることを誓います。拙者を終生お傍にお置き下さいませ」


「幸村さん大げさー。でもありがと。私…ここで生きていくね」


桃の細い肩に手を添えて、優しくゆっくりと背中をタオルで擦った。

時折指に伝わってくる肌のやわらかさと滑らかな感触に雄が刺激されたが、桃は天下人となった謙信の正室となる清き身。

たかがいち家臣の自分が手にかけていい存在ではない。


「明日が楽しみですね」


「うん。楽しみだね」


皆が、心待ちにしている。
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