優しい手①~戦国:石田三成~【完】

心に決める

風呂に入る前にまずクロに会いに行き、主より懐いてしまった暴れ馬の餌を与えた。


決心はまだつかなかったけれど、オーパーツ探しを止めて越後へと行こうとは思っていた。

できれば…三成について来てもらいたい。


「クロちゃん…その時はついて来てくれる?」


餌よりも桃に夢中なクロは何度も首を縦に振っては頷くような仕種を見せて、気持ちが軽くなった桃は鼻唄を歌いながら湯殿へと向かい、服を脱ぐと…


大きなお風呂に勢いよく入った。


「気持ちいー!大きなお風呂っていいなあ」


檜で作られたお風呂からはリラックスできる良い香りがして、上機嫌のまま桃は身体を洗い、髪を洗う。


この一瞬だけは戦国時代にタイムスリップしたことを忘れることができるので、桃のお風呂タイムは毎回長時間だったが大山も三成も何も言わなかった。


「今日はさぼっちゃったから明日はがんばろっかなあ」


逆に、先にオーパーツを見つけておけば越後にも行きやすい。

そこで両親ともし会えたら…


三成とはお別れしなければならない。


「…手遅れになる前に…お別れできるかなあ…」


出会ってまだそんなに時は流れてはいないが、急速に心が通いはじめているような気がする。


…謙信のことも気になるが…三成の方に惹かれているのは間違いない。


「やだなあ、気が多い女みたいで…。第一みんなかっこよすぎで…」


上せそうになったので風呂から上がろうとした桃は戸を開けた。


「…!!」


「…!?」


――目の前には、三成が立っていた。
…もちろん、裸で。


言葉を無くした両者は互いを見つめ、そして視線が自然と下がっては…顔色を変えた。


「きゃ、きゃあーっ!!」


大絶叫を上げてその場にうずくまった桃は立ち尽くす三成に背を向けて叫んだ。


「見ないで見ないで!見ないで!」


「も、桃…!」


絶句したような三成の低い声に一気に身体が熱くなり、泣き出しそうになったところ…


戸が突然閉まってはまた開き、ぱさり、と身体に湯着がかけられた。


「…まだこちらを見るなよ。俺とて…恥ずかしい」


熱くなる。
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