優しい手①~戦国:石田三成~【完】
後ろを向いてくれているのがわかる。


慌てて薄い湯着を着込むと桃は湯の中に飛び込んだ。


「は、入りました…」


「ん、では…」


波紋が広がっては身体にぶつかり、三成も入ってきたのがわかる。


「三成さんは…湯着を…その…」


「本来は着ぬが…そなたが居るから今日は着た。桃、こちらを見ろ」


「や、やだ!大体なんで一緒に入らなきゃいけないの…」


そっと近付く気配がしたので肩越しに振り返ると… 目の前には微かに上気した顔で瞳を潤ませる三成が居た。


てっきり湯着をつけていると思っていた桃は、申し分ない程度に腰に布を巻いている三成に驚き、あんぐりと口を開ける。


「み、みみみ三成さ…」


「女子と風呂を共にするなどはじめてのことだ」


そわそわと身体を動かしてはこちらを見ないようにしてくれている三成は、檜の浴槽にもたれかかると息を吐く。


「穏やかな気分だ。こんな日々が長く続けばいいが…」


「…三成さん…」


――この男の最期を思えば苦しくて息ができなくなる。


生涯豊臣一族に仕えた石田三成。


この男の歴史を狂わせてしまうのは、自分かもしれないのだ。


「そだね、戦なんて早くなくなればいいのにね」


――そう言って高い位置にある窓を見上げた桃の身体を三成は引き寄せた。


一瞬抵抗するように身体が強張ったが…委ねるようにして腕の中に収まる。


「そなたは…謙信や信玄らの最期をも知っているのか?どこまで俺に話せる?」


「…知ってるよ、だけど言えないの。三成さんも…私にあまり干渉しない方がいいと思う。私は帰らなきゃ…あ…っ」


互いに向き合いながら桃の首筋を指でなぞり、意志を込めて見つめる。


「そなたの気持ちは尊重したいが、俺の想いも尊重してくれ。干渉するなと言われてできるものではない」


戸惑う桃の頬を包み込み、いきなり深く口づけると小さな吐息と共に瞳が閉じる。

そのままの高ぶりを表すかのように半分透けた桃の湯着に手をかけた時…


「…桃?」


ついに上せた桃は気絶してしまっていた。


――三成はその軽い身体を抱き上げて湯殿から出た。
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