四竜帝の大陸【青の大陸編】

12

『なに痴話喧嘩おっぱじめてんですか? 姫さん、そんなに逆さにして振ったら旦那の内臓が出ちゃいますぜ?』

右の眉を器用にあげたダルフェに、我は念話で怒鳴った。
声が無いので怒鳴ったとという表現は、少々違うのやもしれぬがな。

=ダルフェ、何を言ってる! 我のりこが泣いて錯乱し、とんでもない事を考え始めたのだぞ!?
 
『はぁ。異界語で捲くし立ててるから俺にゃ、意味不明です。ま、この形相じゃろくでもないことに気づいて、悲観してパニック状態って感じですかねぇ~』

=見とらんでりこを助けろ! このままではりこがっ!

『思うんですがねぇ。この自体は、旦那の後ろ向きな姿勢が招いたんじゃないっすかぁ?』

=後ろ向きだとっ!? 我はりこの心を守る為に、余計な情報は伝えなかっただけだ!

『それがまずかったから、こうなってんですよ。ほんとに、使えないねぇ旦那は』

我の身体を振り続けるりこは大きな黒い眼から涙を流し、唇を震えさせながら嗚咽を漏らしている。
我が念話で話しかけても、弾かれてしまい意志の疎通が出来ない状態だ。
りこの叫ぶような念は一方的に我に叩けつけられ、その支離滅裂ながらも核心をついた内容に、我は焦った。

我の‘つがい’になるということは我を、我の【力】を手に入れるということだ。
我も、竜族の性質を強く持っている。

‘つがい’が関係する事柄になると‘つがい’を最優先に考えてしまい、しばし……いや、ほとんど冷静な判断が出来ない。
りこが考えたように、我はりこの為ならばなんだってしてしまう。
壊すことも、殺すことも、滅ぼすことにもなんの抵抗がない。

それを世界の【敵】というならば、その通りだ。
りこに‘お願い’をされたら我は四竜帝だって引き裂くし、大陸を海に沈める。

普通の竜には、そんな【力】は無い。
だから竜のこの性質ははた迷惑なだけで、大した害は無い。

それにこの異常なまでに雌本位な性質は一過性のもの。
繁殖能力が低い竜族は、1組のつがいから生まれるのは生涯1体のみ。
子の数が少ないのは、長命種にはよくある事だ。

普通の竜同士はつがいに出会うと竜珠を交換し、名づけを行う。
それにより雄は発情し、蜜月期に入る。
その後は雌が妊娠するまで交尾をし、懐妊後は雄は雌と胎の子に尽くす。
つがいを得たばかりの雄が危険なのは雌が妊娠するまでであって、懐妊後はもとの性格にもどる。

判断能力も通常の状態になる。
1週間、長くても1ヶ月程で雌竜は妊娠する。
雌は雄とは異なり、つがいに出会って蜜月期に入ろうとも通常の思考を維持していので、雄のように見境が無くなることは無いのだが。

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