犬と猫…ときどき、君

「午前中、混んでただろ?」

その声にハッとして視線を上げると、私の気持ちに気付いてか、クスッと笑った聡君。


「あー、うん。結構混んでたかも」

「だよなぁ。午前中から抜けられたら良かったんだけど……。どうしても、やらないといけない事があってさ」

「ううん、平気だよ! 午後からでも、すごく助かるもん」

「そっか」

にっこりと微笑んだ聡君は、その大きな手を私の頭の上に乗せて、そのまま顔を覗き込む。


「胡桃」

「ん?」

「大丈夫か?」

「……っ」

その瞬間、胸がギュッとしめつけられて、ほんの少しだけ泣きたくなった。


「……うん。全然平気だよ!」

――大丈夫。

泣きたくなるのは、忘れてないからじゃなくて。

私の頭を撫でる聡君の手の温もりが、あの日と同じで……。

ただ。

あの瞬間の気持ちを、思い出してしまうからだ。


「そっか。ならいいんだけど」

そんな聡君の声を聞きながら、私はランにいる城戸の姿を、またぼんやりと眺める。

あの頃の私は、どんな気持ちであいつを見つめていたのだろう?


“非恋愛体質になったのは、城戸のせい“――そんなマコの言葉が頭に浮かんだ。


じゃー、城戸と付き合っていたあの頃の私は、きちんと“恋愛”が出来ていたのかな――……?




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