犬と猫…ときどき、君
◆エピローグ



「行ってきます」

「はーい、気を付けてね」


少し恥ずかしそうに挨拶をして家を出て行ったのは、最近春希によく似てきた“愛息子《まなむすこ》”。


「あれ? あいつ出掛けたの?」

それと入れ違いで、二階から下りてきた春希の頭には、寝癖がピョコピョコ。


「おはよう。寝癖すごいけど」

「おー、おはよ。寝癖は……昨日の夜のお前のせいだな」

「……」

「まぁ、それはいいとして。あいつどこ行ったの?」

「んー? 今日はサッカー教えてもらうんだって」

「ふーん。誰に?」

「……」

「え? なに?」


いや、別にいいんだけどさ。

いいんだけど……。


「優太くんのお父さん」

「“優太くん”って?」

「宮崎さんちの」

「はぁ!? お前、起こせよ!!」


だから嫌だったんだよねー……。


「宮崎さんって、あの“宮崎さん”だろ!?」

「そうだねー」


昔から宮崎航太というサッカー選手が好きだった春希。

あれから色々あって、横山先生の病院は、獣医を目指している先生のお孫さんの為に返すことにした。


それで、新しい街で動物病院を開いたんだけど……。


「胡桃!! 出掛ける準備しろ!!」

「は!?」

たまたま息子の遥人《はると》が転校した学校に、宮崎さんの息子がいた。


すっかり仲良くなった遥人と優太君は、休みの日に、よく一緒にサッカーの練習をしている。


「場所は? 聞いた!?」

「聞いたけど、また遥人に嫌な顔されるよ?」

「……」


そこに時々やって来て、二人にサッカーを教えてくれる宮崎さんに、春希は会いたくて仕方がないらしい。


「止めといたら?」

「ヤダ。行く」

「もー!! またしばらく口きいてもらえなくても知らないからね!!」

「あんなクソガキの反抗期なんて怖くねぇし」


フンッと鼻で笑った春希は、出かける気満々で、仕方なく準備をした私の手を取ると、真っ青な空の下に大きく一歩踏み出した。



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