犬と猫…ときどき、君

「あ、そうだ」

「ん?」

「ここに名前書いて」

すっかり機嫌の直った春希が、そんな言葉と共に私の目の前に差し出したのは、一枚の紙切れ。

見ると、そこには“篠崎軍団”とマコ、他に数人の学生の名前が書かれていた。


「何これ」

「いいから、いいから。はい、どーぞ」


いきなりの行動に首を傾げながらも、差し出されたペンを素直に受け取り、言われるがままに自分の名前を書き込む。

すると、春希は何故か眉間に皺を寄せて。


「お前さ……こんな簡単に名前書いたら、そのうち変なもん買わされんぞ」

「はい?」

「世界に二個しかない壺とか、水晶玉とか」

「は?」


“名前を書け”と言った張本人のくせに、どうして私がイチャモンを付けられないといけないのか……。


「まぁ、いっか」

だけど目の前の春希は、言いたいことだけ言って満足したのか、壺や水晶の話を膨らませる事もなく。

受け取った紙を、ポケットにしまい込んだ。


「えっ!? な、なに!? 結局、何なわけ!?」

慌ててその手を掴んだ私を見下ろす春希の顔は、明らかに何かを企んでいる顔。


「一緒に頑張ろうぜー」

「はっ!? 何を!?」

「ソフトボール」

「はい?」


ソフト……ボール?


「篠崎達と、ソフト部立ち上げようって話になってさ。……つっても、所詮は“愛好会”だけど」

「え!?」

いやいやいや。

何これ。

悪徳商法!?


「マルチだよ!! これっ!!」

「まぁまぁ、いいじゃん。楽しいと思うぞ」

「えー……」


大学に入ってまで、わざわざ部活みたいな運動をするの?

しかも、三年からって。


――だけどさ。


私の顔を覗き込みながら、楽しそうに笑うあなたを見ていたら、何だかこっちまで楽しい気分になって――「まぁいっか」ってそんな風に思えてしまうから、本当に不思議だ。


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