【完】 After Love~恋のおとしまえ~

私の軽い擦り傷は、病院に着いた頃にはすでに血が固まりかけていた。

しかし、駐車場に車を止めると、「ちょっと待ってろ!」とサトシは車から降りて慌てて病院へと駆けてゆく。

それから、消毒液やガーゼなどを手に戻ってきて、私のひざの手当てをしてくれた。

「よし、これでいい」

手当が終わると、サトシは私の頭に手を乗せてにこりと笑顔を見せた。

「恋人が医者だと、こういうとき頼れるだろ?」

いや、確かに手当をしてくれたのはありがたいけど。

今回の手当は、別に医者でなくても可能というか……

むしろ、出先近くで消毒液を買って、もっと早く手当をしてくれる人もいそうな気がするけど……

病院まで来る必要もなかったような……


でも。
でも。
でも。


病院に戻って来るまでのサトシの運転は、明らかにいつもよりスピードを出していて、焦っている様子で。

……私の傷の手当を早くしないと、と思って、焦ってくれたのかもしれないから。

「うん、ありがと」

私はやっぱり、こんなサトシが好きだ。


「じゃあ、家まで送るな」

「遠いのにごめんね。もう少しお互いの家が近かったら良かったのにね」

「送るのもドライブ気分で楽しいから、距離なんて気にならないよ」


カツサンドとペンギンと、消毒液の匂い。

それが、私とサトシの、初めての長距離ドライブの想い出。

< 47 / 595 >

この作品をシェア

pagetop