パソコンのキーを叩く音と、時計の針が進む音が、定時を二時間過ぎたオフィスに響き渡る。

その静寂を破ったのは、私のミスを指摘する冷静な声だった。

「先輩。ここの数字が合いません」

「え? どこ?」

「ここです」

後輩の斉藤くんが指をさした箇所を覗き込む。

「本当だ。すぐに訂正しなくちゃ。でも提出する前に気づいてくれて良かった。斉藤くん、ありがとう」

「いいえ」

こんな初歩的なミスをしてしまうなんて、情けない。

連日の残業で疲れが溜まっているのかな……。

三十歳の誕生日を目前にして身体だけではなく、なんだか心まで疲れ切っている気がした。

もしかして結婚もしないまま、こうして仕事だけして歳をとっていくのかな?

あと少しで二十代とお別れしなければならないと思うと、さらに気分が沈んだ。

でも後輩の斉藤くんの爽やかな笑顔と言葉が、私にヤル気を与えてくれる。

「先輩、僕も手伝いますから、頑張って直しちゃいましょう」

「うん」

二重の丸い瞳を細めて白い歯を見せて微笑む斉藤くんの笑顔に、見惚れること数秒。不意に背後から声が聞こえ、ビクリと肩が跳ね上がる。

「ふたり揃って、残業か?」

この声は……。

「清水部長、どうして?」

驚いて振り返ると、すでに退社をしたと思っていた部長が、何故か私たちのデスクの後ろに立っていた。

清水部長はこの春、他部署から上司として異動してきた人物で年は私より八つ上だ。

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