「……こら、酔っ払い」

自販機のボタンに指をかけていたのは、彼だった……。

「ゆう……古賀君……」
「さっきから何度も呼んでいるんだぞ」
「ごめん、聞えなかった」

古賀は 千華の耳の中に納まってるウォークマンのイヤフォンを指先で引きぬく。
洋楽が大音量で流れ出てる。
酔って、耳にはイヤホン。大音量で流してて、これじゃあ声も聞えないはずだ。
古賀は溜息をついてこの状態の千華を嗜める。
千華はバッグに手を伸ばし、ウォークマンを止めてイヤホンを収める。

「送る」

「はい?」

「家まで送る」
「……古賀君、私は実家を出たのですが」
「……」
「だからキミと帰る方向は違うのよ?」
古賀は自動販売機からミネラルウォーターを取り出して、千華も頬にくっつける。
「冷たあ!」
あまりの冷たさに首をすくめる。
「酔いが醒めたか」
「……醒めてるよ。古賀君が酔ってるんじゃない?」
「酔ってない」
「じゃあ、帰りなよ。逆方向だよ」
改札を抜けようとすると、ホームから最終電車が発車するアナウンスが流れる。
笛の音と一緒にドアが閉まり、電車は走り出していってしまった。
「あ――――!!」
「……」
「あーあー…………最終が……」
千華は古賀を無視して切符を払い戻すと、地下通路から地上へと出た。
「なんでついてくるの?」
「心配だと云ったはずだ」
「心配いらないよ。古賀君みたいに、なんでもよくできないけれど、そこそこ普通にやってる」
「千華……」
「……」
「こういう時は素直にお願いしますと言うものだろ?」
「……」
「ほら」
もう一度、冷たいペットボトルを顔に押し付けられる。

「……お願いします」

千華は悔しそうに呟いて彼を見上げる。
彼は優しげに笑って、千華に手を差し伸べる。