テノヒラノネツ
明日迎えに行くから
千華がそう云うと、彼は意外そうな顔をする。

「何?」

「……いや、千華はいやなんだろうと思ってたから」
自分だって、家族のみんなが誘うように古賀を誘いたかった。
でも、そうなると、やっぱりいろいろと思い出す。

「昔ほどじゃないよ」

昔は、こういう夕飯をともにすることも時々あって。
そのたびに食事中の会話では、必ずと言っていいほど、母親が言うのだ。
『祐樹君はほんとデキがよくて……』比較しても無駄だし、あまり云ってる本人も気にしてないかもしれないが、子供心が少し傷ついた時期もあった。
同じ年なのになんでこうも、違うもんかねえと……。
この言葉を聞かされた千華は、翌日までブルーな気分を引きずったものだ。
また、そんな千華をなだめる古賀に、千華はヤツ当たりすることもしばしばで……。
千華は一緒に彼と食事ができて嬉しかったけれど、その後の千華とのやりとりが、彼には迷惑以外の何ものでもなかったのだろうと、今なら思える。
しかし現在は、もうそんな比較も無意味だから、そんな会話もあるはずないし、あったとしても受け流せる。

「いや、そうじゃなくて……先週のこともあったからな」

繋いだ手を振り解いて、彼から離れたことを云っているのだろうか?
それとも、先週の飲み会の時、何かしたのだろうか?

「私、先週の飲み会の時、へんだった?」

「飲み会の時は、あんなもんだろうが、俺が云ってるのは、送ろうとした時のことだ」
「……」

「急に一人で帰っていった」

そのことか……と千華は想う。

千華はただ―――……2人だけ……彼と2人だけでいるのが、ダメなのだ。
2人だけだと、彼の彼女に後ろめたさ、羨ましさ妬ましさを感じる……。
でも2人でいると昔に戻ったみたいな、懐かしさと嬉しさがこみ上がる。
この想いが振り子のように、交互にゆれる。
それがいやなのだ。
平穏で波風たたない心の中に、小石を投げ込まれてしまったようで……。、
しかし、家族や友人たちに囲まれているなら、彼等の会話の方に気を取られて、そんな想いも抱かずにすむ。
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