テノヒラノネツ
実家に残してある服の中でなるだけ気に入っていて、デート仕様のモノを選ぶ。
髪もメイクも整える。
父も兄も昨日の今日だから、ダイニングには出てこなかった。
もし彼等がいたら「デートか? どこか行くのか?」と冷やかされていたに違いない。
母親と共に朝食のしたくをして、お歳暮と内祝いの送付先を確認する。
そうこうしていると玄関のドアチャイムが鳴った。
千華はバッグを持って立ち上がる。

「千華、顔、恐いわ……ケンカしにいくんじゃないでしょ?」
「そう? もしかしたら大喧嘩して帰ってくるかもね」
「遅くなるようなら、電話するのよ」

千華はくるりと母親に向き直る。
「どれぐらいの時間が遅いって? 古賀君と一緒にいるのに、それはないでしょ」
「またまたそんなデートなのに」
「ありえないし。行って来ます」
ブーツを履き、玄関のドアを開けると、彼が門扉のそばに立ってた。

「おはよう」

「おはよう」
並んで門扉を抜け、駅の方向へ歩き始めた。
こうして自宅から並んで歩くのは、小学生以来のような気がする。
中学になると、彼は部活の朝練で、千華よりも早く家を出て行っていたし、たまに同じ時刻に登校することがあっても、そう云う時は千華がタイミングをずらして登校していた……そんなことを思い出した。

「悪いけど、銀行に寄らなくちゃいけないの」
「昨日云ってたな。銀行とデパート?」
「そう、それで、古賀君は?」
「行き先は同じだから」
「デパート?」
「そう」
「あ、彼女にプレゼント? それを選ぶの手伝うのね?」

千華はぽんと両手を合わせて、古賀を見上げる。
彼は頷く。
それを見て、千華は彼から視線を外して、正面を見る。

「そっか……」

そういう可能性も、あるんじゃないかとは思っていた。
それでも少し、ショックは隠せない。
彼に気がつかれないように、そっと溜息をついた。
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