初恋の実らせ方
初恋にはご用心
長谷部家には何度も訪れたことがあるけれど、よくよく考えてみると英知と二人きりになるのは初めてかもしれない。


がらんとした玄関には乱雑に脱ぎ捨てられた英知のスニーカーだけ。
彩はその隣りに靴を脱ぐと、英知のスニーカーもきちんと揃えてから彼の後を追った。


英知の部屋は二階に上がってすぐ。


彩に何も言わず階段を上り始める英知を見て、彼の具合が相当悪いことを改めて悟る。


彩は力のない英知の背中に向かって恐る恐る声を掛けた。


「英知。
シチュー、キッチンに置いておくね」


英知は階段の上から彩を見下ろしながら小さく頷くと、自分の部屋に入って行く。
その目はさっきと違って穏やかだった。


―――今日の英知は変だ。
怒ったり、悲しそうだったり。
そのくるくる変わる態度が気になって堪らない。


どうしてなんだろう。
久しぶりに英知に会って緊張しているせいなのかな。
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