ヒロくんがお迎えに来てくれて理事長とも挨拶をかわしていた。

二人は以前に一度会っている。


「先日は失礼しました。改めてお詫びをと思っていたのですが」

「いや、いいんだよ。悪いのはわたしだ。西倉くんが死んだ息子に似ているような気がして。つい、拘ってしまったんだ」

「息子さんにですか?」

「ああ。楓の父親なんだ。だから楓が西倉くんに想いを寄せたんだな。娘は父親と似た男を好きになると言うし」

「そうでしたか」

「そんな理由があって本当だったらそう簡単に縁談の話しを白紙に戻すことはしなかったんだが……西倉くんの相手が谷本さんだったので泣く泣く諦めたよ。助かったな、西倉くん」


わたしは内心、冷や冷やだった。

理事長がわたしの叫びをヒロくんに喋ってしまうんじゃないかと思って。

世良課長のときもそうだった。

ヒロくんのこととなると暴走が利かなくなるところ、ここも重要課題だな。

わたしはそれを頭の中のメモ帳にそっと書き加えた。


こうしてわたしの長い一日は終わろうとしていた。

もうぐったり。

でもどこか清々しさもあり、人っていいなと思えた一日だった。

お礼を言って理事長宅をあとにしたときに見上げた夜空の月がおかえりとわたしを出迎えた。