【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】
第一楽章  恋の始まり

1.雪の日の夜 - 神楽 -




私を両親の元から引き取って
養子にいれてくれた母方の祖母がなくなって
最初の冬が訪れた。



祖母と二人で
おせち料理をつついてたお正月。


だけど今年は……
そんな祖母も居なくて……
だらだらと寝て過ごした。





そんなお正月が過ぎて、
いつもの日常が今日も訪れる。






私、結城神楽
(ゆうき かぐら)は、
現在、音大に通いながら
ピアノのインストラクターをして
生計を立ててる。




幼い時から、
ピアノ漬けで生活した私は……
それが原因で心に傷をおった。




それでも……
ピアノを奏でていられる時間は
好きだから……
音楽教室のグレード試験を取りながら
過ごしてきた。




そのグレードが2級になったところで
教室の先生から、
『インストラクターとしてバイトしてみないか?』。





そう言われたのがきっかけで、
今は……その教室の、登録講師として働きながら
昼間は音大に通う日々を過ごしてた。




お正月明け。


大学は休みだけど、ピアノ講師の仕事は
休みの今日もぎっちり詰まってた。




寝起きの体を朝風呂でしゃっきりと覚醒させて、
着替えを済ませると、
メイクをして自宅をでる。






最寄駅まで、足早に急いで
地下鉄に乗り込むと、教室がある楽器屋の裏口から
建物の中に入る。







「おはようございます」




建物の4階にある、
インストラクターの控室に顔を出すと、
私のサポートを務める、
マネージャーの川瀬さんが
ゆっくりと会釈をして近づいて来た。




「結城先生、
 おはようございます。

 今日1日の予定です」




手渡された
今日のスケジュールを確認する。




午前中。



朝一の9時から2階の教室で
小学生低学年のグループレッスン。
1時間。



その後、10時半から1階のサロンで
エレクトーンのインストラクターである、
親友の文香(あやか)とのコンサート。
45分。



昼休みを挟んで、
午後からは出張レッスンの日だった。





「うわっ。

 私、今日大人気だ……」




思わず、ぎっしりと詰まりすぎたスケジュールに
愚痴をこぼすと、川瀬さんがにっこりと笑った。




「さっ、川瀬さん。
 今日も宜しくお願いします」



気合を入れて、
教室用のインストラクターの制服に着替えると、
グループレッスンの教室へと顔を出す。



音楽の楽しみ方を知って貰うための授業を
1時間終えると、文香と合流して一回のサロンへ。




一曲目は、掴みが肝心。


商店街を歩いてる人、
店内に居る人たちの注目を引かないと。

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