亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
6.『ローアン』
父に連れられて、キーツは城に初めて入った。
豪華なシャンデリアに金色の柱や天井。
埃一つ無い綺麗すぎる城………なんだか落ち着かなかった。

世話係りのアレクセイを上手く撒いて、キーツは城から抜けだした。
父の話はよく分からない。第一どうして自分を連れて城に来たのか。

大きな城の回りを歩いていると………一部分だけ、青々とした芝生の中に白い花畑があった。

その手前に、小さな人影が蹲っていた。
綺麗な赤い服に、背中に垂れた長い金髪。

後ろからそっと覗きこむと……少女の手には青い卵があった。

不意に、少女はキーツに振り返った。

……青い大きな瞳が、真っ直ぐキーツを映した。

―――…何の卵?

―――お母様は聖獣とおっしゃってたわ。

―――聖獣?……本当に?

―――疑うの?子供らしくここは信じてみたら良いのに。

―――………。

―――私より年上でしょう?もうちょっとシャンとしたら?

―――…はあ…。

―――……見掛けない方ね。貴方、お名前は?

―――…キーツ=ファネル=ゲイン。

―――…侯爵家の方ね。



少女は立上がり、まるで令嬢の様に丁寧に頭を下げた。

………向けられた笑顔が、目に焼きついた。
―――私はローアン。ローアン=ヴァルネーゼよ。
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