今夜、俺のトナリで眠りなよ
「俺が親父の息子だからと、何でも欲深く要求しないからだってことを覚えておけ。それとこの傷を公表してないから、だ。そうだろ? 兄貴……」

 俺がまた上着の裾を捲ると、兄貴がパッと視線を逸らした。

 痛々しい傷跡は見たくないってか?

 綺麗なものばかりしか見て来てないお坊ちゃまだからなあ。

「それで? 今度は僕の何が欲しいの?」

「『僕の』だあ? 阿呆らし。大学に通学する都合上ここに来だけだと言っただろ」

「それだけとは思えない。桜子が狙い?」

「あんたには愛人がいるだろ」

「だからって人妻を奪うのを許されるとでも?」

「許して欲しいなんて俺が言ったか?」

「言ってないね。そうやって僕のものを奪いたがるなんて、欲深いって言うんだよ。知らなかったかな?」

「うるせえよ。正面きって堂々と来てやったんだ。覚悟しておけ」

「何の覚悟が僕に必要と言うんだろうね。君が明らかに悪さをしようとしているだけ。僕には関係ないね」

「あっそ。じゃあ、俺の勝手にやらせてもらうよ」

 俺はソファから腰を持ち上げると、ニヤリと兄貴を見て笑ってやった。

          一樹side 終わり
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