死が二人を分かつまで
動き出す運命



駅前の有料駐車場に車を停めて、津田はそこに隣接している広場へと急いだ。


すぐに目当ての人物を発見する。

大きな人垣ができていて、近付くと案の定、写真の彼が歌を披露していた。


間近にその姿を見た瞬間、会いに来て正解だったと津田は心の中で小躍りする。


ちょうど1曲終わったところだったので、津田はビデオカメラを取り出すと、本人や周りに気付かれないよう録画を開始した。


普段の彼の実力を記録するためだ。


次は、若くして急逝した、ある男性歌手が作ったラブソングだった。


発売から数10年経った今でも歌い継がれている不朽の名作である。


ギターの腕前には正直ずっこけそうになったが、まぁ、楽器はあまり重要ではない。


肝心なのは歌だ。

その実力は、津田の予想をはるかに超えていた。

もちろん、良い意味で、である。


クセのない歌い方だった。


歌唱力の未熟な者が既存の歌をコピーする場合、本人の歌い方を意識しすぎてモノマネになってしまったり、余計な節をつけてごまかそうとしたりするが、彼の歌声はとてもベーシックだった。
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