それは、あまりにも突然で意味不明なプロポーズだ。


「おっしゃる意味がわかりません」


最初は呆気に取られていた万里子だが、しだいに怒りがこみ上げてくる。


「あまりにも失礼ではありませんか? 頭取が身分を保証された方ですから、きっと弁護士より立派な肩書きをお持ちなのでしょう。ですが、あなたがどなたであれ、お断りさせていただきます。私の心は売り物ではありません!」


万里子は今度こそ席を立った。「失礼します」と言い添えて、部屋を出ようとする。

しかし、その背中に投げつけられたのは更に失礼極まりない言葉であった。


「別に、君の心を買おうとは思っていない。僕が欲しいのは――身体だ」


卓巳の口調が微妙に変化した。
言葉の内容にふさわしい横柄さが漂い始めたと言うべきか。

万里子は言葉どおりに受け取り、瞬く間に耳まで赤く染めた。


「ああ、失礼。身体というより、名前だろうか? 僕は千早万里子を妻にしたいと思っている。きわめて形式的な“愛する妻”に」


時折、言葉の端々に万里子を見下すようなニュアンスが混じる。
それが、卓巳がどれほど洗練されたルックスの男性でも、信用する気になれない理由のひとつだ。


「尚更わかりません。これは何かの冗談ですか? それとも、私を試してるんですか?」


卓巳は何も答えず、内ポケットから煙草を取り出した。