東西銀行の渋江頭取宅は横浜市内にある。

万里子は父、千早隆太郎《ちはやりゅうたろう》と一緒に世田谷区の自宅から車で来ていた。

基本的に万里子はパーティの類は苦手だ。スカートを穿き、ある程度肌を見せなければならないのが苦痛なのである。

だが、今夜はそんなことを気にしている場合ではない。

万里子は今日の昼間、別れ際に卓巳が言ったことを思い出していた。



『今夜は記念すべき出会いになる。それまでに、覚悟を決めておくことだ』

卓巳の目は――『ノー』は認めない、そう言っていた。


藤原グループ本社社長。

万里子は最初、その言葉を信用していなかった。

グループの総売上は、開発途上国の国家予算を遥かに上回る。そんな巨大コンツェルンのトップが、どうみても三十代前半にしか見えない男性だと誰が思うだろう。

しかし、自宅に戻りパソコンを開き、ネットに繋いだ直後……万里子の顔は一瞬で青ざめた。

日本経済界の若きリーダーとして、その顔写真とプロフィールが掲載されていたのだ。


藤原卓巳はまだ二十九歳。六年前に先代社長・藤原高徳《ふじわらたかのり》が亡くなり、孫の卓巳が跡を継いだ。『当時、司法修習中の藤原卓巳氏は……』とプロフィールに書いてあったので、弁護士の肩書きは嘘ではなかった。

そのことに、万里子はなぜかホッとした。