愛を教えて

(9)尤もらしい理屈

卓巳は内心、ほくそ笑んでいた。

昨晩同様、万里子は思い知ったはずである。返事など聞くまでもない。


勝利を確信しながら、正面に座りうつむく万里子の両肩が、小刻みに震えるのを見つめていた。


「……そうですね。あなたのおっしゃるとおりです」



言葉では同意しながら、その声には明らかに違う響きがある。万里子が顔を上げたとき、卓巳の勝利の方程式は音を立てて崩れた。


「そんな私が、身体だけでなく戸籍まで汚して、お金のために偽装結婚の罪を犯せば、両親に合わせる顔がありません。どんなに“尤もらしい理屈”をつけても、自らの利益のために人を騙すのは事実ですから!」



広いオーナーズ・スイートに、たっぷり十秒は沈黙のときが流れた。


宗はこのとき、青褪める卓巳を初めて目にしたのである。

入社以来、いや、司法研修所で知り合って以来初めての出来事ではなかろうか。

しかも、女子大生に論破されたのだ。迂闊なフォローもできず、宗は卓巳の指示を待っていた。



しかし、興奮状態にある万里子には、ただならぬ卓巳や宗の様子に気づくことができない。


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