愛を教えて

(10)自戒

「さすが社長。飴とムチですね」


帰りは宗の運転で社用のベンツを走らせ、卓巳は万里子を自宅まで送り届けた。

万里子を泣き顔のままで帰す訳にはいかない。ある程度時間が必要だったため、陽はだいぶ西に傾いていた。

この時期、太陽は日を追うごとに、足早に姿を隠そうとする。まるで真夏に罪を犯して逃げているかのようだ。


(万里子のようだな)


卓巳は後部座席の窓から西日に目を細めつつ、愚にも付かないことを考えていた。


そんな卓巳の様子には気づかず、宗はまんまとサインに持ち込んだ手腕を称え、笑顔を見せる。

宗のざれ言は耳に入っていたが、今の卓巳はとても笑う気になれなかった。



車が万里子の自宅に着く少し前。


『藤原さんもやっぱり社長さんなんですね。父と同じでホッとしました。会社のためなら、私も協力させていただきます。おばあ様を騙すのは心苦しいですけれど……。でも、幸せな姿を見せてあげたいですものね』


卓巳の訂正と謝罪を受け入れ、万里子は完全に卓巳を信用したらしい。


『ただ……。藤原さんに交際中の方はいらっしゃらないんですか? 結婚に否定的でも、そういった方がいらっしゃるなら』

『いない。そういった女性は、今は……いない。君はどうなんだ? たとえ中絶させた男でも、愛していたんだろう? あるいは、誤解されて困るような新しい恋人はいないのか?』


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