渋谷区にある聖マリア女子大学、千早万里子は付属の聖マリア女学院初等科から在籍している。
現在は文学部の四年生。
教育学科で初等教育を専攻し、幼稚園、小学校の教諭となるべく勉強中であった。


「だから、折角のチャンスなのよ。卒業まで半年もないのに、万里子さんはこのまま学生生活が終わっても後悔しないの?」

「それに、これはただの遊びじゃないの。相手は未来のお医者さまよ。どこに出会いが転がっているかわからないわ。万里子さんも、一度くらい出てみてもいいんじゃないかしら?」


世間一般において、聖マリア女子大学はお嬢様大学と言われている。
だが実際のところ、大学から入学したほとんどの学生は、中産階級の娘だ。
父親はある程度の資産家で中堅企業の社長、母方は旧家に繋がる――そんな万里子のような“本物のお嬢様”は、初等科から通うごく一部であった。

とはいえ、大学の名前をブランドとして捉えるなら、聖マリア女子大学は上位ランクに属している。
合コンとなると人気が高く、それを利用して多くの学生が将来性のある恋人探しに精を出していた。


「ええ、でも今日は本当に都合が悪くて……ごめんなさい」


万里子は数人の友人に囲まれ、控え目に微笑んだ。

柔らかな栗色の髪が風になびき、背中の中ほどで揺れていた。染めている訳でもないのに生まれつき色が淡い。そのせいか、射し込む秋の木漏れ日に、万里子の頭上はティアラをつけたように煌めいている。

ただ……九月の終わり、周囲のほとんどがまだ半袖を着ているにもかかわらず、万里子はクリーム色の長袖ブラウスを着ていた。それも第一ボタンまでキッチリ留め、襟のリボンも長さを揃えて左右均等に結んでいる。
隙を見せない着こなしに、彼女の几帳面さが窺えた。