愛を教えて
万里子自身、友人と集まるのは嫌いではない。
これと言ってクラブ活動はしていないが、誘われたら可能な限り集まりには出席している。
だが合コンとなると話は別。

そこには必ず男性がいて、彼らの目的がわからないほど万里子は少女ではなかった。いつも、アレコレと理由をつけては断っている。


「でも、やっと卒論用の実習研修も終わったところでしょう? 少しくらい自由になさっても、お父様もお叱りにはならないんじゃない?」


友人の間では、万里子の“ファザコン”はかなり有名だ。

万里子は四歳のときに母を亡くしていた。
第二子妊娠中に前置胎盤で大量出血。母はそのまま、お腹の子供ともに還らぬ人となった。
その後、父は再婚もせずに、男手ひとつで万里子を育ててくれた。

そんなこともあって、万里子は誰よりも父を優先する。 


「いえ、父のことではなく、十一月には私立小学校の二次試験もありますので」


万里子は小さい声で付け足すように言った。

第一目標は幼稚園教諭。
すでに試験は終わっており結果待ちだ。少しでも経験を積みたくて、付属幼稚園での実習だけでなく、多くの幼稚園でボランティアをやらせてもらった。

だが、公立幼稚園の採用は狭き門。
そして私立の場合は、縁故採用が多かった。


「何も万里子さんがムキになってお仕事を探さなくても。いずれお父様のお眼鏡に適った方を、お婿さんに迎えるのでしょう?」


知人や教授に推薦を頼みたいのだが、会社社長のひとり娘である万里子の場合、すぐに結婚して辞めるだろうと真剣に取り合ってもらえない。

確かに、こうして万里子をコンパに誘う友人も、採用試験などは最初から諦めていると話していた。
父親が開業医という友人は、卒業後は家事手伝いをしながら『聖マリア女子大卒』の肩書きで医者を狙うと宣言していた。

だが、万里子には全く興味のないことだ。


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