愛を教えて

(3)イトコ違い

「和食の店を予約しておきました。夕食までは、お邪魔しませんので」


宗は部屋を開け、万里子にルームキーを渡すとそのまま引き上げて行った。

万里子はひとりになり、ガーデンスイートの室内を見回した。

玄関スペースとリビングに仕切りはなく、ソファとテーブルも一組だけ。ただ、棟の先端のせいか変則的なデザインだった。

足を踏み入れ、ベッドルームに繋がるはずのドアを開ける。そこには細長い通路があり、ドアがふたつ。バスルームとレストルームだ。通路の途中に洗面台があり、突き当たりのドアを開けると、そこにベッドルームがあった。

リビングとベッドルームは綺麗なシンメトリーになっている。


ここは、オーナーズ・スイートとは別の棟だった。

あちらは、映画やドラマでしか見ることのない豪華な部屋だが、こちらは、父との旅行で利用するくらいの大きさだ。

万里子はホッと息を吐き、玄関、リビング、ベッドルームと厳重に鍵をかけ、ダブルベッドに腰を下ろした。


これくらいのホテル、しかもスイートとなればビデオ・オン・デマンドのサービスが当然用意されてある。

万里子はリモコンに手を伸ばし、映画を観ながら、卓巳の仕事が終わるのを待つことにした。


契約書を交わして以来、結婚に向けての信憑性を高めるために、卓巳とのデートに応じている。

万里子にすれば、はじめは気が重かった。好き合ってもいないふたりが……しかも、万里子にデートの真似事などできるのだろうか、と。


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