愛を教えて

(4)一夜の設定

十月も残り少なくなり、ふたりのデートも二桁を超えた。

デートは外だけでなく、ホテルの中――オーナーズ・スイートでも行われた。

ルームサービスで食事を取り、ベッドルームのソファで寛ぎながら映画を観て、お互いに好きな作品について語り合うこともあった。

結婚後は同じ部屋で過ごすのだから、その予行演習というべきか。

時には、卓巳に急な仕事の電話が入ることもある。そんな場合でも、万里子は文句を言うこともなく、卓巳の仕事が終わるのをジッと待っていた。

ふたりは互いに、ごく自然に相手のテリトリーに入り、それをふたりとも、心地よく感じ始めた。


そしてついに、ふたりは決断する。

ホテルの部屋で、どちらも真剣な表情で、一夜の段取りを話し合った。


「今夜、僕らはこの部屋で一夜を共にする。携帯には出るな、君から家に連絡してはダメだ。その……愛し合うあまりつい夢中になって、最後の一線を越えてしまった――と言う設定だ」


卓巳の言葉に、万里子は薄っすらと頬を染める。



父はここまで、卓巳との婚約はもちろん、デートを繰り返していることも知らないはずだ。

あのパーティの翌日に卓巳本人が迎えに来て、彼の秘書も一緒に会っただけ、という万里子の言葉を信じている。

万里子は心苦しかったが……。


『今、東西銀行を通じて融資の手続きが進んでいる。完了前に僕たちのことを知れば、お父上は藤原グループの関与を察して融資を断ってくるんじゃないか?』


卓巳に説得され、万里子は素直に受け入れる。


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