愛を教えて

(9)誕生

ふたりの“最初の子供”が産まれたのは、予定日と言われた十月十一日の正午だった。


万里子は卓巳の懇願により、予定日の二週間も前から入院していた。もちろん、卓巳も病院に泊まり込み、会社に通うという徹底ぶりだ。

そして予定日当日の早朝、万里子は破水したのである。


「陣痛はまだ微弱で、間隔も離れています。子宮口もまだまだですので、早くても、あと半日はかかると思っていてください」


万里子は分娩に時間がかかるのは承知していたし、覚悟も決まっている。

だが、泣きそうなのは卓巳のほうだった。その日はテキサス州からの客を迎え、北海道の牧場を案内したあと、重要な契約を交わすことになっていた。


「予定日ちょうどに産まれる確率が一番低いと……宗! お前がそう言うから仕事を入れたんだぞ!」

「そ、それは、そういうデータがある、と申し上げただけでして」


卓巳に怒鳴られ、宗は腕時計を見ながら汗を掻いている。


「たくみさん……大丈夫だから。行ってください」


万里子は精一杯の笑顔を作って見せた。


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