酒を飲む気分など全く削がれた薫はビールを冷蔵庫に仕舞った。


惣菜だけを電子レンジで温め、それを食事に充てた。


あの男は一体何なのだろう。


話し掛けてきた時は愛想の良い青年の振りをしていたのだろう。


本性らしきものが見えた時、彼は冷たい目をしていた。


あれは、自分以外でも何度か見たことのある目だ。


大切なものを奪われた、被害者の関係者である証。


それがあの目だ。


薫は食欲も失い、余った惣菜を冷蔵庫にラップもせずに放り込んだ。


甦る記憶は残酷などという言葉では片付けられない。


今も生々しく思い出すことの出来る冷たい肌の感触。


二度と開くことのない瞳。


二度と動くことのない身体。


それを目にした時の、それに触れた時の感情ははっきりと胸にある。


生涯消えることのない感情を憎しみと呼ぶ以外、表す術はない。


その感情を知ってしまったから、刑事を辞めた。


誰かを殺したい程憎む感情は、刑事にあってはならないものだ。



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