リアル
リアル3




隆は一人の部屋で息をついた。


予想外であって、予想以上の展開だ。


本当は過去の話などするつもりはなかった。


だが、薫の部屋にあった写真を見た時、話さなくてはいけないと思った。


自分の手の内を明かしてもいいと思えたのだ。


明るく笑う美しい姉妹。


その笑顔は今の薫にはなかった。


隆は手元の写真に視線を落とした。


両親が殺される一週間前に撮った写真だ。


日曜日に家族三人で出掛けた公園で、近くにいた若い男に頼んで撮ってもらった写真。


幸せそうに笑う三人は、この一週間後に悲劇を迎えることなど露程も知らなかった。


このまま幸せな時間はいつまでも続くと思っていた。


あの写真の中の二人も同じだったのだろう。


今も蘇る記憶は真っ赤に染まった景色だ。


真っ赤に染まった景色に浮かび上がる黒はタトゥーの色だ。


両親を包丁で刺す男はニット帽を目深に被り、マスクをしていた。


だけれど、首が出ていた。


そしてそこには、龍をナイフが貫いたタトゥーがあったのだ。


幼い隆は、刺される両親の姿を見ていられず、ずっとその模様を見ていた。


だからそのタトゥーは確りと脳にインプットされているのだ。


そして忘れることは出来ない。



.
< 54 / 265 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop