リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
(図書券まで、のんびり歩くと二時間近くかかるのね)


一時間半くらいかななどと、そんな甘い見積もりを出した自分を、明子はおバカさんと内心で叱った。
いや、わき目もふらず、一心不乱に歩いてくれば、きっとその目算道理だったに違いない。
けれど、久しぶりに歩く道には初めて見る店などの発見も多く、ウィンドウショッピングを楽しみつつの散策は、思いがけず時間がかかった。
実際に歩いてみて体で知ったその事実に驚き、それなりにヘロヘロになりながら、明子はようやくたどり着いた図書館を見上げた。


(いっそのこと、ここで引き返そうかしら)


信号で立ち止まるたび、明子はそんなことを考えて。


(いやいや、ここまで来ればあと少し、もうちょっと)
(がんばれ、がんばれ)
(あっこちゃん、がんばれ)


なかなか見えてこない図書館に、ともすると、挫けそうになる自分にそう言い聞かせて励ましているうちに、けっきょく、家へと引き返すタイミングを逃してしまい、明子はここまで歩いてしまった。


(また歩いて戻れるの? あたし)
(しかも、明日は会社だよ)
(会議中に寝てしまったらどうしよう)


そんなことを考えながら、明子は大きく、ひとつ、深呼吸した。
木の多い公園と隣接しているせいか、排気ガス臭のない、少しひんやりとした空気が心地よかった。
バックの中からお茶の入ったペットボトルを取り出して、水分補給する。
体を中から冷やしてくれるお茶が、明子の気分を変えてくれた。
中でちょいと座って休めば、また歩いて帰る気力くらいは沸いてくるに違いないと、そう自分に暗示をかけた。


このとき。
もう少し。
空模様に注意していれば。


一時間ほど後に、明子はそう悔やむことになるなど、思ってもいなかった。
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