「ただ今、戻りました」

やや険のある顔つきで、19インチの大きなディスプレイを睨んでいる牧野に、形式ばかりの帰社の挨拶をして、明子は会議室の使用許可を求めた。
ちらりと吉田の姿を探したが、見当たらないところを見ると、客先にでも顔を出ているか、あるいは富山まで出向いているのだろう。

「どうだった?」
「それはそれは、賑やかな打ち合わせでした。ああ。沢木様が牧野課長のことを、懐かしがられてました」
「そっか。静かな人に見えて、怒るとすごいんだぞ、あの人」

顔を上げない牧野に、明子はわざと聞かせるようなため息を盛大に吐き出して、抑揚のない声を地に這わせた。

「いろいろと、伺いたいことがあるんで、後でお時間を頂けますか?」

その声にようやく顔を上げた牧野は、腕を組んで牧野を睨むように見下ろしている明子に、片頬を歪めて笑う。

「おう。お手柔らかにな」
「なにを言ってるんですか。牧野課長に手心加えたら、返り討ちにあうのはこっちですから」

今さら、文句を言ったところで仕方がないことなのは判ってる。
なんだかんだ言っても、戦闘開始のゴングの鐘を鳴らしたのは、紛れもなく自分自身なのだから。
そう判っていても、誰かの悪意や思惑で、なにも知らないまま、右に左にと転がされているのは癪だった。
小さく鼻を鳴らして肩を竦めた牧野は、明子の顔を見て、またにたりと笑った。

「今日は、ちゃんと顔、作っているな。そこそこ見られるじゃねえか」

笑うその顔に、明子は思わず拳を握った。


(こ、このやろ)


青筋を立てて、怒鳴り返しそうになるのを辛うじて堪えて、それは、どうもですと苦虫を潰したような声で明子は答えた。

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