リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
子どものことから、そうだった。
自分のこととなると、やると決めて腰をあげるまでが、とにかく本当に明子は長いのだ。
尻込みしているわけではないし、性格的にも、それほどのんびり屋でも面倒くさがり屋でもないはずなのに、本気にならなければならない自分のことには、なかなか、本気になることができなかった。
人のことなら、呆れられるほどてきぱきと、あれやこれやと世話を焼いてひたすら動き回れるのに、自分のことになると、なかなか、動けなかった。
でも、一度本気で腰をあげてからの明子は、最大級の根性と忍耐とやる気を発揮した。

ずっと。
ずっと。
そうだった。

昨夜、久しぶりに思い出した、かつての恋人のことを、明子はぼんやりと考えた。


(もしも……)
(去っていくあの人を、本気で私が追いかけていたら……)
(なにかが、変わっていたのかな)
(仕方がないとか)
(産まれてくる子に、父親は必要だしとか)
(そんな言葉ばかり、並べ立てて、諦めることばかり考えていないで)
(離れたくないって、ホンキで、泣きながらでも追いかけてたら……)


考えたところで、今さらどうしようもないことまで考えてしまうほど、昨夜の衝撃と決意はどっしりと、明子の中に根付いて居座った。
まだ幾分寝ぼけている頭だったけれど、とりあえず、昨夜の決意が本気だという最終確認して。


明子の一日が、一気に始まった。
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