リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
遡って、日曜日。

少し早めの起床にして、寝る前に、何度も何度も、明日、ぜったいにやるんだぞと言い聞かせた本棚の整理をして、それから、あれこれと買い集めたダイエット本を見ながら、明子は今後の計画をたてた。
今までの挫折を踏まえれば、自分を過信しすぎて、無理なことをやりすぎていたのだと、明子はそう考えた。
昔、成功したときのイメージが強く残り、過ぎた自信を生み出して、あれもこれもなんでもやって、とにかく、一気に痩せることばかりを考えていた。
そして、挫折して、リバウンド。
それを繰り返していた。
なので、今回は、まずは確実にできることから始めることにしようと、明子は決めた。


(だって、毎日運動って言ってもね)
(ムリムリ)


朝は7時を少しずつ回った時間には家を出て、電車とバスを乗り継いで出社している。
ここ最近は不況のあおりを受けて、景気のよかったころに比べれば、若干、仕事量が減ってきたけど、それでもこの時期は二十二時、二十三時くらいまで残業することも多い。


(そこから、寝る間を惜しんでまで運動するなんてさ、できないしね)
(うん、ムリムリ)

どんな本を見ても、共通して書いてあるのは、痩せたいなら夜はしっかり寝ろということだった。
だからと言って、朝からがっつり歩くなんてことも、無理だ。
今までの経験から言って、ぜったい、無理なことだ。
間違いなく、挫折する。
だから、寝る前の腹筋とエクササイズを、自分に科した。
なぜか、エクササイズ用のゴムチューブが三本も、土曜の発掘作業で発見されてしまい、膝から崩れ落ちるような勢いでへこんだのだ。
何してんのよ、あたし、と。
だから、それをがっつり使ってやると、拳を握って心に決めた。

それから、朝の通勤時は、電車の中でもバスの中でも、できる限り立っている。
座りたいけど、立つ。
座って寝ていたいけど、立つ。
殺気立った席取り合戦から撤退する。
駅や会社では、極力、階段を使う。


(まあ、会社はね、一人のとき限定、だけどね)


とにかく、あれこれと加古の失敗を省みて、それくらいの運動から始めることにした。
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