昼まで惰眠を貪り、ひたすら、ぬくぬくの布団の中で眠っていたい。
そんな悪魔のごとき甘い誘惑を振り切って、明子はベッドから起き出た。

朝、八時。
休日だと言うのにこんな時間に起きたのは、久しぶりのことだった。

勢いよく開けたカーテンの向こうに広がる晴れ渡った青空を見て、大きく伸びをしながら「今日は、お洗濯日和だわねー」と呟いた。
昨夜はどうしようかなと迷っていたカーテンの洗濯を、その青空を見て、明子は決めた。

そうと決まれば、さっさとカーテンを外してしまおうと手を伸ばしたとき、明子はこのカーテンがこの窓に掛けられたあの日のことを、唐突に思い出した。


(そもそもさ、このカーテン。あたしの趣味じゃないんだよね)


実家が二世帯住宅へと生まれ変わり、それまで暮らしていた賃貸マンションから、姉一家が実家に移り住んで間もないころ。
近くまで来たからと、母と姉が二人仲良く揃って、突然、荷物を抱えてこの部屋を訪ねてきた。
明子もこの部屋に移り住んで、まだ半年にもなっていなかった。

『これも、まだそんなに使ってないんだけど、新しい家に合わなくて』
『これも、まだ使えるんだけど、新しい家じゃ使えなくて』

そんなことを言いながら、二人は明子の制止も聞かずに、明らかに姉の趣味で選ばれて、けれど、新しい生活の始まりにより不用品の烙印を押された品物を、好き勝手に明子の部屋に置き始めた。
カーテンも、その中の一つだった。

ウチも必要ないからという明子の言葉など、二人は都合よく無視をして、それどころか『こんな、地味なカーテン、男の人みたいよ』『いやねえ、こんなの使って』と顔をしかめながら言うと、明子の部屋に掛けられていたカーテンを勝手に取り外して、そして、勝手に取り付けていったそれは、可憐な花柄模様のカーテンだった。

『女の子なんだから、お花とかフリルとか、そういう、かわいいのを使わなきゃ』
『ホントに、明子は子どものころから、そういうことに無頓着なんだから』
『女の子のくせにねえ。どうしてかわいいのを選べないのかしら』
『まったくだわ。同じ姉妹で、どうしてこうも違っちゃったのかしらねえ』

好き勝手なことを言いながら張り切ってカーテンを外し始めた二人を、もはや止めることすら面倒になり、勝手にすればいいと明子は捨て置いた。
二人が帰ったあと、自分で外して捨てるのも面倒になって、けっきょく、そのままにしてしまった、たっぷりのフリルが鬱陶しい、乙女ちっくなカーテンだった。
明子の部屋には、まったく似合わない、カーテンだった。


(いや、それを言うなら……)


二人が置いていったものは、パステルピンク色の大皿だの、全面に花の絵が描かれたカップとソーサーだのと、どれもこれも、明子の趣味とは大きくかけ離れていて、まったく使う気になれないものばかりだった。
だからといって処分するのも面倒で、今もそのまま放置してしまったそれらの食器は、いまでは食器棚の上で、埃を布団に眠っていた。


(このさい、いっそのこと、全部、処分してしまおうかな)


そんなことを考えながら、とりあえず、カーテンを取り外す作業に明子は取り掛かった。

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