子どものころから、明子は姉が苦手だった。

嫌いとか。
好きとか。
そんな感情ではなく、ただ、ボタンを掛け違えたような、そんな居心地の悪さを、姉といると明子は感じてしまうのだった。
この感情は、苦手としか言いようがなかった。

フリルが好きで。
レースが好きで。
リボンが好きで。
花模様やハートの模様が好きで。
ぬいぐるみが好きで。
可愛いものが好き。
ふわふわで、もこもこしたものが好き。
そして。
かわいいお嫁さんになって。
素敵なママになるのが夢。
そんな姉だった。

姉のその価値観を否定するつもりはない。
それはそれでいいと思う。
まあ、子どもの時分は、姉の趣味で選ばれた姉の服を当然のように着させられていたことには、うんざりだったけど。
ままごと遊びなんかをしているよりも、泥だらけになって遊んでいるほうが好きな子どもだったので、姉のお古の可愛らしい服なんて、あっという間にボロボロにしていた。
そのたびに、私の服を汚したと、泣いて怒る姉に明子は困り果てていた。

それでも、ため息を零しつつも、そんなこんなには明子は耐えてきた。

耐えられなかったのは、自分のその価値観を微塵の躊躇いもなく、妹に、というか、この世の中に存在する全ての女性に、押し付けてくることだった。

姉は、信じて疑わないのだ。
自分が好きなものは、女の子なら誰でも好きであるはずだと。
可愛らしい幸せなお嫁さんになるという夢は、女の子なら誰でも望んでいる夢だということを。
素敵なママになることは、女の子なら夢見て当たり前のことなのだと。
姉は、その価値観は世の中全ての女性が共通して持ち合わせている絶対のものだと、そう信じているのだ。
心の底から。
だから、自分の趣味を押し付けて、妹に不快な思いをさせているなどということは、姉には想像できない。
母は、明子がそんな姉にやや辟易していることには気付いているようだが、それでも姉を止めることはなかった。
それどころか、そんな姉を妹思いの優しい子と、あの母はそんなふうに思っているんじゃないのと、明子は疑っている。

そして、明子のことは、姉のその優しさを素直に受け取れない捻くれた子、そんなふうに思っているに違いないと明子は信じている。

この作品のキーワード
上司  OL  アラサー  妄想  不器用