高天原異聞 ~女神の言伝~

3 夢の名残


 何処までも広がる雲海。
 眼下には大海原。
 そして、生まれたばかりの若々しい島々。
 大地を覆う瑞々しい緑の草。

 美しい世界。

 飽きることなく眺めていた。
 いつまでもいつまでも見ていたかった。
 身を乗り出しすぎる自分を抱きしめる強い腕。
 視線を向けると、微笑みに胸が熱くなる。
 寄り添うだけで、心が満たされていた。
 ともに生み出した国を、世界を、もう一度見る。
 雲が流れ、雨が降り、風が吹き、草が靡き、海原は轟くように岩場に弾け、その全てが自分達を寿いでいた。
 愛しさに、心が震える。

 なんという愛おしく美しい世界だろう。

 全てが満ち足りていた。
 神命に従って、天降ったが、彼女はこの世界を愛していた。
 望んだ全てが、ここに在るかのように。
 地上を見下ろし、彼女は満足する。

――最後の……を

 そう言ったのは、自分だったろうか。
 それとも、愛しい背の君だったろうか。
 だが、異存はなかった。
 目の前の彼を、とても愛していたから。











< 17 / 399 >

この作品をシェア

pagetop