高天原異聞 ~女神の言伝~

1 邂逅


 桜が続く校門までの道、入学式を終えたばかりの新入生達が帰っていく。
 新しい制服が馴染まないその初々しい後ろ姿に、ついつい笑みがこぼれる。

「もう春だねえ」

 別館である図書館の窓から覗いていた藤堂美咲(とうどうみさき)は、前庭を囲むように植えられた桜の木に不意に視線を移す。
 満開の桜が風にあおられ、校門を出てゆく影の上を泳ぐように舞う。
 乾いたアスファルトに密やかな余韻を残して通り過ぎていく小さな花びらは、なぜか視線を放せぬほどに鮮明だ。

 いつも、春が来ると美咲は何か訳のわからない物思いに囚われる。

 それがいつの頃からなのか、もう彼女にもわからない。
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